この記事は、場面ごとの手順です。なぜ起きるかの説明は最小限にして、その場で何をするかを書きます。
診断も薬も医師の領分です。ここに書くのは、通所と訪問の現場で職員ができることだけです。
全部に共通する三つ
場面ごとの手順に入る前に、どの場面でも効く三つがあります。
一、否定しない。「そんなことはありません」「違いますよ」は、ほぼ必ず悪化させます。事実を正すことに意味はありません。
二、説得しない。理屈で納得していただく道は、ほとんどの場面で閉じています。理屈が通らないから困っておられます。
三、場面を変える。否定も説得もせずに状況を変える唯一の手が、場所を変える、話題を変える、人を変えることです。切り替えは、多くの場合それで起きます。
もの盗られ妄想
財布がない、お金を取られた、あの職員が持っていった。介護の現場でいちばん多く、いちばん職員が傷つく場面です。
手順
一、否定しない。「取っていません」「ここにはありませんよ」は使えません。疑いが強まるだけです。
二、一緒に探す。これが中心です。「それは困りましたね。一緒に探しましょう」と言って、実際に探します。探すという行為そのものが、味方であるという意思表示になります。
三、見つけても、こちらが差し出さない。見つけた場所を指して「こちらではないですか」と言い、ご本人の手で取っていただきます。職員が手渡すと、持っていた人になってしまいます。
四、見つかったことを喜ぶ。それ以上言わない。「ほら、ここにありましたよ」「無くしていただけでしょう」と付け加えないでください。恥をかかせると、次は言えなくなります。
疑われた職員を、一人にしないでください。
もの盗られ妄想は、いちばん身近で世話をしている人に向かうことが知られています。つまり、疑われるのはいちばんよく関わっている職員です。
その職員を責めず、その方から外してください。個人の問題ではなく、構造としてそうなるのだと全員が知っていることが必要です。
繰り返すとき
財布の置き場所を一か所に決め、そこにしか置かない。同じものを二つ用意しておく。探す場所の順番をあらかじめ決めておく。毎回同じ手順で探すと、探す時間そのものが短くなります。
帰宅願望
夕方が近づくと立ち上がられ、玄関へ向かわれる。「帰ります」「子どもが待っている」。
手順
一、止めない。玄関の前に立ちはだかると、力がぶつかります。転倒も起きます。
二、一緒に歩く。「そうですか、では玄関まで行きましょうか」と並んで歩きます。歩いているうちに落ち着かれる方が、少なくありません。
三、理由を聞く。「何かご用がありますか」。子どもを迎えに行く、ご飯の支度がある、仕事がある。この理由が、次の手を決めます。
四、その役割に応える。ご飯の支度と言われたら、厨房の手伝いをお願いする。仕事と言われたら、洗濯物をたたむ仕事をお願いする。役割を果たしていない気がかりが、帰りたさの正体であることが多いのです。
五、時刻をずらす。「お茶を一杯飲んでから」「もうすぐお迎えの車が来ます」。嘘にならない範囲で、少しだけ先に送ります。
起きる前に手を打つ
記録を三日分並べると、だいたい同じ時刻に起きていることが分かります。その十五分前に、別の活動を入れてください。レクと体操から、手を使うものを選ぶと切り替わりやすくなります。
同じ話を何度もされる
さっき答えたばかりの質問を、また聞かれる。
「さっきも言いましたよ」は使えません。その方の記憶には、聞いた事実がありません。言われた側には、責められたことだけが残ります。
手順
毎回、初めてのように答えます。ただし、職員が疲れます。だから形にします。
- 答えを紙に書いて、手元に置いていただく。「お迎えは四時です」の一行
- 大きなカレンダーに、その日の予定を書いて貼る
- 時計を、数字の大きいものに替える
- 答える職員を決めず、全員が同じ答えを返す
覚えていただくのではなく、覚えていなくても困らない形にします。

入浴を拒まれる
「入りたくない」「もう入った」。
手順
一、その場では引く。一度断られてから押すと、入浴そのものが嫌な記憶になります。
二、人を替える。いちばん効く手です。同性の職員、その方と相性のよい職員に代わってもらう。それだけで入られることが、実際によくあります。
三、言葉を替える。「お風呂に入りましょう」ではなく「足だけ洗いましょうか」「湯加減を見ていただけますか」。入浴という言葉を使わずに、浴室まで行きます。
四、時間を替える。順番を先頭にする、あるいは最後にする。ざわついた時間帯を避けます。
五、拒む理由を疑う。寒い、裸を見られたくない、以前に転んで怖い、体が痛い。理由がある拒否は、理由を消せば解決します。脱衣室を暖める、タオルで覆う、手すりを増やす。
夕方の混乱
日が傾くころから落ち着かなくなる方がおられます。歩き回られる、声が大きくなる、帰宅願望が出る。
手順
- 先に明るくする。暗くなる前に照明を点けます。影が減ると、混乱も減ります
- 音を減らす。テレビを消す、複数の会話が重なる場を避ける
- 手を使う活動を入れる。折る、並べる、拭く。体が動くと切り替わります
- 一人にしない。そばに職員が座っているだけで収まることがあります
幻視を伴うならレビー小体型認知症の記事を読んでください。明るくすることの効き方が、さらにはっきりします。
怒られたとき
大きな声を出される、手が出る。
一、距離を取る。正面に立たず、斜めから。腕の届く範囲から一歩下がります。
二、その場を離れる。ほかの職員に代わってもらう。これがいちばん速い解決です。
三、落ち着かれたら、何もなかったように接する。蒸し返さない。謝らせない。
四、後で、直前に何があったかを書く。職員が何をしたか、どんな音がしたか、誰がそばにいたか。怒りには、ほぼ必ず直前の引き金があります。記録を並べると、引き金が見えてきます。
記録の書き方
どの場面でも、書くことは同じ四つです。
| 書くこと | 例 |
|---|---|
| いつ | 十五時十分ごろ |
| どんな場面で | おやつの片づけ中、ホールがざわついていた |
| 何と言われたか | 「子どもを迎えに行く」と話され、玄関へ向かわれる |
| 何をしたら収まったか | 一緒に玄関まで歩き、洗濯物をたたむ仕事をお願いすると、そのまま席に戻られた |
「帰宅願望あり。声かけにて対応」では、次の職員が何もできません。収まった手を書いてください。それが事業所の財産になります。
型によって、効く手が変わります
ここまでの手順は、どの型にもおおむね使えます。ただし前頭側頭型だけは、止めるより環境を変えるほうが圧倒的に効きます。レビー小体型は明るさが効きます。
四つの型の違いは認知症の種類と現場での関わり方にまとめました。
生活の困難さは認知症高齢者の日常生活自立度で判定できます。長谷川式、障害高齢者の日常生活自立度、ADLとあわせて、同じ日に四つ取ってください。
ご家族に渡すもの
ご家族は、家で同じ場面に一人で向き合っておられます。
だから、事業所で収まった手を、そのまま渡してください。「うちでは、一緒に玄関まで歩いて、洗濯物をお願いすると落ち着かれました」。これが、いちばん役に立ちます。
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