長谷川式は、認知の働きを三十点満点で測るものさしです。診断ではありません。点そのものより、前に測ったときと比べてどう動いたかを見るための道具です。
長谷川式は、診断ではなく、ものさしです
正しくは改訂長谷川式簡易知能評価スケール、英語の頭文字から HDS-R と呼ばれます。九つの項目を口頭でやり取りするだけで、十分ほどで終わります。書く項目も、図を写す項目もありませんので、手が動かない方や、字が書きにくい方にも行えます。
ここで出るのは点数です。認知症かどうかを決めるのは医師で、画像の検査や生活の様子や、ご家族からの話を合わせて判断します。介護の現場で長谷川式を使う意味は、診断のためではなく、変化に最初に気づくためです。
九つの項目と配点
| 項目 | 見ているもの | 配点 |
|---|---|---|
| 年齢 | 自分についての記憶 | 1 |
| 日時の見当識 | 今がいつか | 4 |
| 場所の見当識 | 今どこにいるか | 2 |
| 3 つの言葉の記銘 | 聞いたことをその場で覚える | 3 |
| 計算 | 注意を保ちながら計算する | 2 |
| 数字の逆唱 | 頭の中で順を入れ替える | 2 |
| 3 つの言葉の遅延再生 | 少し前のことを思い出す | 6 |
| 5 つの物品の記銘 | 見たものを覚えている | 5 |
| 言葉の流暢性 | 言葉を引き出す力 | 5 |
配点が最も大きいのは、三つの言葉の遅延再生です。少し前に聞いたことを思い出す力で、認知症の初めの時期にいちばん早く落ちるところです。ここだけが落ちていて、ほかが保たれている。そういう出方をすることがあります。合計だけを見ていると気づけません。
二十点以下が、認知症の疑いとされます
もとの研究では、二十点と二十一点のあいだに区切りが置かれました。二十点以下であれば認知症の疑いがあるとされます。ただしこれは疑いであって、診断ではありません。
点は、いろいろな理由で動きます。教育を受けた年数が短い方は低めに出ることがあります。耳が遠い方は、設問が聞こえていないだけで点を落とします。その日の体調、直前に何かあったかどうか、実施する人との関係。全部が影響します。
点だけを、ご家族に伝えないでください。
「十八点でした」とだけ伝えると、数字が独り歩きします。どの項目が取れて、どの項目が取れなかったか。日常の様子とどう合っているか。そこまで添えて初めて、ご家族にとって意味のある情報になります。
点数の段階(参考)
| 点 | おおよその段階 |
|---|---|
| 21 点以上 | 認知症の疑いには当たらないとされる範囲 |
| 20 〜 16 点 | 軽度 |
| 15 〜 11 点 | 中等度 |
| 10 〜 5 点 | やや高度 |
| 4 点以下 | 非常に高度 |
この段階は目安です。段階が同じでも、できることは人によってまったく違います。介護の計画を立てるときは、段階ではなく、どの項目が落ちているかを見てください。
実施するときに気をつけること
まず、テストだと構えさせないことです。「少しお話を聞かせてください」から入る方が、本来の力が出ます。急かさない、正解を教えない、間違いを訂正しない。この三つを守ってください。
途中でご本人が答えられずに落ち込むことがあります。そのときは無理に続けず、そこで止めても構いません。点を取ることより、その方との関係を壊さないことの方が大切です。
実施する場所と時刻もそろえてください。午前と午後で点が変わる方がいます。前回が午前の静養室だったなら、次も同じ条件で測ります。条件が違うのに点が下がったと騒ぐのは、測り方の問題です。
誰が、どこで、いつ行うか
実施できる人に決まりはありません。医師でなくても、看護師でなくても行えます。実際に通所介護では、相談員や介護職員が行っています。大切なのは資格ではなく、その方が落ち着いて話せる相手かどうかです。
場所は、他の利用者の声が入らないところを選んでください。フロアの隅で行うと、周りの方が答えを教えてしまうことがあります。悪気があるわけではありませんが、点になりません。
時刻は、その方の調子がよい時間帯にします。食事の直後は眠くなりますし、帰りの時間が近いと落ち着きません。午前の入浴の前後を避けた時間を、あらかじめ決めておくとよいでしょう。
そして、次に測るときも同じ条件にしてください。前回が午前の相談室だったなら、今回も午前の相談室で行います。条件が違うのに点が下がったと騒ぐのは、測り方の問題です。
ご家族から相談されたときの答え方
「うちの親は認知症でしょうか」と聞かれることがあります。点数を伝えるだけでは答えになりません。ご家族が本当に知りたいのは、これから何が起きるのか、自分は何をすればよいのか、という二つです。
お伝えできるのは事実だけです。どの項目が取れて、どの項目が取れなかったか。半年前と比べてどう動いたか。日常の様子とどう合っているか。ここまでを整理して、判断は医師にお願いする形にします。
やってはいけないのは、点数から段階を伝えて「中等度です」と言い切ることです。段階は目安であって、その方にできることを表してはいません。同じ十四点でも、料理ができる方もいれば、着替えに介助が要る方もいます。
伝えるときの三つ
取れた項目と取れなかった項目を、具体的に。前回との差を、期間とともに。そして次にどうするかを、一つだけ。この形にすると、ご家族が動けます。
長谷川式と MMSE の違い
どちらも三十点満点で、区切りの点も近いところにあります。違うのは中身です。長谷川式は言葉のやり取りだけで終わりますが、MMSE には図形を写す項目と、書いた文を読んで従う項目があります。その分だけ空間を捉える力を見られますが、手が動かない方には行えません。
もう一つの違いは、長谷川式が日本で作られたことです。設問の中身が日本の暮らしに合わせてあります。海外の研究と比べる必要がないのなら、日本の現場では長谷川式の方が使いやすい場面が多いと考えます。
点が下がったときに、何をするか
順番があります。まず測り方を疑い、次に体の状態を疑い、それから相談します。
- 測った条件が前回と同じだったか。時刻、場所、実施した人、補聴器の有無
- 体の側に理由がないか。脱水、便秘、薬が変わった、眠れていない、痛みがある
- そのうえで下がっているなら、どの項目がいつから落ちたかを添えて、医師とご家族に伝える
特に脱水と薬は見落とされます。夏に点が落ちた方が、水分を足したら戻った。そういうことが実際にあります。数字が下がったからといって、すぐに進行したと決めないでください。
点が取れない項目にこそ、介護の手がかりがあります
日時の見当識が落ちている方には、カレンダーと時計を目に入る場所に置きます。今日が何日か分からないまま一日を過ごすのは、思っているより不安なものです。
場所の見当識が落ちている方には、トイレや自室の入口に、文字ではなく絵で目印を付けます。字が読めても、字だと目に入らないことがあります。
遅延再生が落ちている方には、さっき伝えたことをもう一度伝えます。忘れたことを責めない。同じことを何度でも、初めてのように伝える。これは技術です。
言葉の流暢性が落ちている方には、開いた問いを避けて、選べる形で聞きます。「何を飲みますか」ではなく「お茶とコーヒー、どちらにしますか」。答えられる形にすると、会話が続きます。
点数表は、そのまま介護の計画の材料になります。合計だけを見て終わらせず、どの項目が落ちたのかを計画に写してください。
記録として残す意味
一回きりの点数には、ほとんど意味がありません。意味が生まれるのは二回目からです。半年前と比べて、どの項目が何点落ちたか。それが分かって初めて、ご家族にも医師にも伝えられます。
紙の用紙で行った結果を、そのまま引き出しにしまってしまう事業所が多くあります。次に測るとき、前の用紙を探すところから始まる。これでは比べられません。利用者ごとに残して、前回の点が横に並んで見える形にしておくことをお勧めします。
