この型は、現場でいちばん誤解されます。記憶が比較的保たれているからです。会話も成立します。名前も分かります。だから「認知症だとは思えない」「分かっていてやっている」と見えてしまいます。
そして職員の側に、怒りが生まれます。ここが、この型の難しさの中心です。
この記事は診断や治療の説明ではありません。診断は医師が行います。書くのは、通所と訪問の現場での関わり方だけです。
何が起きているのか
脳の前のほうと横のほうの働きが落ちます。ここは、抑えること、段取りを立てること、相手の気持ちを想像することを担う場所です。
だから、記憶ではなくふるまいが変わります。
| 現場での現れ方 | 職員に見えている姿 |
|---|---|
| 人のものに手を出す。売り場のものを持ってくる | わざとやっている |
| 気に入らないと席を立って帰る | 勝手な人 |
| 相手が困っていても気にしない | 思いやりがない |
| 毎日同じ時刻に同じ行動を繰り返す | こだわりが強い |
| 甘いものばかり、同じものばかり食べる | 好き嫌いが激しい |
| 言葉が出にくい。同じ言葉を繰り返す | 話を聞いていない |
右の列は、どれも人柄への評価です。左の列は、どれも脳の状態です。この二つを取り違えると、職員が疲弊します。
叱る対応が効かない理由
叱ることが効くのは、叱られた理由と自分の行動が結びつく場合だけです。この型では、そこが結びつきません。
残るのは二つです。叱られたという不快と、叱った職員との関係の悪化。行動は変わりません。
説得も同じです。「どうしてこんなことをするんですか」と問うても、答えは返りません。本人にも分からないからです。
変えるのは、その方ではなく環境の側です
この型の対応は、ほぼこの一行に尽きます。
一、手の届く場所に置かない。ほかの方のおやつ、湯呑み、私物。取ってしまう場面が決まっているなら、その場面が起きない配置に変えます。注意するより速く、確実です。
二、席と順番を固定する。毎回同じ席、同じ流れ。変えると混乱します。逆に言えば、固定してしまえば安定します。
三、道順を決める。玄関から席まで、席からトイレまで。同じ道を通っていただくと、そのまま習慣になります。
四、繰り返す性質を、こちらから使う。ここがこの型の最大の武器です。同じ行動を繰り返すのなら、良い行動を一つ作れば、それが繰り返されます。
実際にあった形
到着してすぐ落ち着かずに歩き回られる方に、「まず窓際の机で新聞を折る」という仕事を毎回お願いしました。三日目から、こちらが言わなくてもその机に向かわれるようになりました。以降、到着直後の混乱がなくなりました。
五、止めるのではなく、置き換える。「やめてください」ではなく「こちらをお願いします」。手が塞がれば、その行動は起きません。
食べることの変化に備える
同じものばかり、甘いものばかり、という変化がよく見られます。量が増えることも、詰め込んでしまうこともあります。
現場での備えは三つです。一人分を先に分けて出す。おかわりは机に置かず、こちらで持つ。詰め込みが見られる方には、一口大に切って少量ずつ出す。
体重の変化を月に一度は測ってください。増える方と、減る方の両方があります。必要な量は必要エネルギーとたんぱく質の計算で出せます。

職員の側を守る
この型では、職員が傷つきます。暴言に聞こえる言葉を受ける、無視されたように感じる、努力が届かない。
だから、対応を一人に背負わせないでください。
- 関わり方を紙一枚にまとめ、全員が同じ対応をする
- 合わない職員がいたら、担当を替える。相性の問題ではなく、構造の問題として扱う
- 申し送りで「うまくいった形」だけを共有する。失敗の共有は、人を責める場になりやすい
人柄が変わったのではなく、脳の状態が変わったのだ。この一行を職員全員が持っているかどうかで、現場の空気が変わります。
働く世代で始まることがあります
この型は、六十五歳未満で始まる方が少なくありません。職場でのふるまいの変化から気づかれることがあります。
その場合、ご本人にお子さんがおられ、住宅の返済が続いていることがあります。制度の使い方も、高齢の方とは変わります。若年性認知症の記事にまとめています。
記録の書き方
| 書き方 | |
|---|---|
| 薄い | 他者の物品を持ち去る行為あり。声かけにて対応 |
| 使える | 十時、隣席の方の湯呑みに手を伸ばされる。制止せず「こちらをどうぞ」とご自分の湯呑みを手元に置くと、そのまま飲まれた。以降、湯呑みは机の中央に置かず、各自の手元に配ることとした |
下の書き方には、次に同じ場面が来たときの手順が入っています。それが記録の目的です。
ほかの型との違い
アルツハイマー型、血管性、レビー小体型との違いは認知症の種類と現場での関わり方にまとめています。
生活の困難さは認知症高齢者の日常生活自立度で判定します。この型は、点数で測る長谷川式では高く出ることがあります。点数と、実際の生活の困難さが一致しない型だということを、覚えておいてください。
ご家族に伝えるとき
ご家族は、長く一緒に暮らしてきた方の人柄が変わったことに、いちばん深く傷ついておられます。「性格が悪くなった」と受け取っておられることもあります。
伝えられるのは事実です。事業所ではこういう場面があり、こう関わったら落ち着かれた。脳の状態によるもので、その方が変わったのではない。この二つを、繰り返し伝えてください。
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