高齢の方は、喉が渇いたと感じにくくなります。だから「飲みたくなったら飲む」では足りません。何 mL 要るのかを決めて、記録する。それが現場での水分の管理です。
基準に数値がありません
まず知っておいていただきたいことがあります。日本人の食事摂取基準(2025 年版)には、水の必要量に数値の基準が設けられていません。
理由は、性別と年齢と身体活動レベルごとに算定できるだけの研究が揃っていないためです。健康な日本人の水の摂取量を詳しく調べた研究は、成人でひとつしかありません。
だから現場で使われているのは、体重あたりの目安です。この頁で計算しているのも、その目安です。厳密な基準ではありませんが、現場で判断するには十分に使えます。
体重あたりの目安
| 年齢 | 体重 1 kg あたり | 体重 50 kg のとき |
|---|---|---|
| 18 歳から 54 歳 | 30 〜 35 mL | 1,500 〜 1,750 mL |
| 55 歳から 64 歳 | 28 〜 32 mL | 1,400 〜 1,600 mL |
| 65 歳以上 | 25 〜 30 mL | 1,250 〜 1,500 mL |
この数は、食事に含まれる水分を含めた合計です。飲み物だけでこれを摂る必要はありません。
食事から入る分を、必ず差し引く
ここを差し引かずに「一日 1,500 mL 飲みましょう」と伝えている現場があります。それは多すぎます。
一日三食を召し上がっている方なら、食事から 800 mL から 1,000 mL の水分が入ります。ごはん、味噌汁、煮物、果物。和食は水分の多い献立です。
だから飲み物で摂るのは、差し引いた残りです。体重 50 kg の高齢の方なら、飲み物でおおよそ 600 mL から 800 mL。コップ三杯から四杯です。
食事の量が減っている方は、逆になります。
食事が半分になれば、食事から入る水分も半分です。差の 400 mL 前後を、飲み物で足さなければなりません。食事量が落ちた方は、脱水の危険がいちばん高い方です。食事の記録と水分の記録を、必ず並べて見てください。
食事量が落ちている方の評価は体重減少率の計算もあわせてご覧ください。
足りていないときのサイン
数字より先に、体に出ます。現場で見るのは次の六つです。
| 見るところ | 足りていないとき |
|---|---|
| 口の中 | 舌が乾いている。唾液が糸を引く。口の中がねばつく |
| 皮膚 | 手の甲をつまんで放したとき、戻りが遅い |
| 尿 | 色が濃い。量が少ない。回数が減った |
| 脇の下 | 乾いている(ふつうは湿っています) |
| 様子 | ぼんやりしている。いつもより反応が鈍い |
| 体重 | 数日で 1 kg 以上減った |
いちばん早く気づけるのは、脇の下と尿の色です。入浴の介助と排泄の介助のときに見えます。気づいたら、その場で記録してください。
ぼんやりしているという変化を、認知症の進行と取り違えないでください。水分を足したら戻った、という例が実際にあります。点数が下がったときの見方は長谷川式の頁にも書いています。
発熱と下痢のときの上乗せ
平熱より 1 ℃高いごとに、体重 1 kg あたり 10 mL を足すのが目安です。体重 50 kg の方が 38 ℃なら、500 mL の上乗せになります。
下痢や嘔吐があるときは、失われた量をそのまま足します。回数と量を記録してください。
汗をかいた日も同じです。夏の送迎で車内が暑かった日、入浴の後、体操の後。その日の中で、いつ汗をかいたかを記録に残すと、翌日の判断が変わります。
飲んでいただくための工夫
「飲んでください」と言って飲まれる方は、そもそも困っていません。困るのは、飲みたがらない方です。
一、一度に多く出さない
500 mL のペットボトルを渡されると、その量に圧倒されて手が出ません。100 mL を六回出すほうが、確実に入ります。
二、飲み物にこだわらない
ゼリー、寒天、汁物、果物、アイスクリーム。水分はここからも摂れます。飲むのが苦手な方には、食べる形で出してください。
三、トイレへの不安を先に解く
「夜のトイレが心配だから飲まない」。これがいちばん多い理由です。日中に多めに摂り、夕方以降は控えるという形にすれば、両方が成り立ちます。この説明をするだけで飲まれるようになる方がおられます。
四、決まった時刻に出す
起床時、朝食時、午前の活動の後、昼食時、午後、夕食時、就寝前。時刻を決めて出すと、量が読めるようになります。飲みたいときに出す形では、記録も管理もできません。
記録の付け方
「水分摂取良好」という記録には、意味がありません。mL で書いてください。
| 書き方 | |
|---|---|
| 薄い | 水分摂取良好 |
| 使える | お茶 150 / 味噌汁 120 / お茶 100 / ゼリー 80 / お茶 150 合計 600 mL(目標 700 mL) |
コップと湯呑みの容量を、あらかじめ測って壁に貼っておいてください。「湯呑み一杯=120 mL」と決まっていれば、誰が記録しても同じ数になります。これをしていない事業所では、記録の数が人によってばらつきます。
そして、目標の量を記録用紙に印刷しておいてください。その日に足りたかどうかが、その場で分かります。
水分の制限がある方
心不全、腎不全、透析を受けておられる方には、水分の制限があります。この頁の計算は当てはまりません。
医師の指示した量を、必ず書面で確認してください。口頭で聞いた量を記憶で運用しないこと。制限のある方の水分は、足りないことより多すぎることのほうが危険です。
夏の備え
その日が危ない日かどうかは、暑さ指数(WBGT)で分かります。28 を超える日は、ここに書く三つを必ず行ってください。
通所の事業所で、夏に起きやすいことが三つあります。
一、送迎の車内。先に乗った方が、最後の方を乗せるまで車内で待ちます。真夏では三十分を超えることがあります。乗車の順と便の組み方は送迎ルートの組み方をご覧ください。
二、入浴の前後。入浴で 500 mL 前後の水分が失われます。入浴前と入浴後の両方で、必ず出してください。
三、家で飲んでいないこと。事業所では管理できても、家での水分は見えません。朝の送迎で、舌と脇の下を見てください。ここで気づけることがあります。
家での様子をご家族と共有する形は、日々の記録が届く仕組みがあると変わります。介護の事業所だけのホームページ制作をご覧ください。
あわせて使う道具
必要なエネルギーとたんぱく質は必要エネルギーの計算で出せます。体重の落ち方は体重減少率の計算で判定できます。三つを同じ日に取ると、その方の栄養の状態が立体になります。
